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研究紹介

我々は光と物質との相互作用によって発現する様々な物理的・化学的現象を多角的に探究しています。広島大学のHiSORPFUVSOR-IIIといった放射光やSACLAX線自由電子レーザー、実験室での超短パルスレーザーを用いることで、ナノ薄膜やナノ粒子、バイオ関連分子を対象に、その物質機能や生体現象の原子レベルでのメカニズムの解明、そして新奇ナノマテリアルの合成およびその物性・機能の評価、を目指した研究を進めています。

分子光科学研究室は、若き斬新なアイデアを持つ皆さん待っています!!

内殻励起反応ダイナミクス

  • ・内殻電子励起の局所性・元素選択性を利用
  • ・サイト選択的励起による化学結合切断反応の制御
  • ・内殻励起による特異な励起状態や緩和過程の解明

軟X線を用いた内殻電子励起の最大の特徴として、可視光や紫外光の吸収に代表される価電子励起とは異なり、局所的な電子遷移である点が挙げられます。これは、内殻電子(1s軌道電子)が原子核に最も近い最内殻軌道に高い存在確率を持っていることに由来します。この特徴を用いると、分子内の特定の原子を選択的に励起することができます。
この内殻励起状態は高いエネルギーを保持しているために、必然的に電子緩和過程であるオージェ崩壊を起こします。それでもまだ不安定なためにイオン性の解離反応が起こってしまい、結果として励起原子周辺での選択的な化学結合の切断が可能となります。私たちは、このようなサイト選択的化学結合切断が、反応場となる官能基を最表面に規則正しく配列した自己組織化単分子膜(SAMs)で顕著に観測されることを見出し、このような内殻励起反応の特性を調べています。さらに、この選択的反応を詳細に調べることで、1分子レベルでの物性(特に導電物性)の解明に応用しています。

導電性有機分子の非接触導電性評価

  • ・光で非接触に導電性を評価する技術の開発
  • ・分子レベルではオームの法則はどうなる?
  • ・ミクロな世界での電流描像の理解

導線を流れる電子は粒子として扱えば理解が容易にできます。その導線がどんどん小さくなって...ナノメートル(10-9 m)やオングストローム(10-10 m; 原子の大きさ)のサイズの導体、すなわち分子素子になると電子の流れはどのように表現できるのでしょうか? このように、私たちは分子レベルで移動する電子(高速に変化する電子の波動関数)を見たいという目標を持っています。
内殻電子励起後の分子はオージェ崩壊という電子緩和をフェムト秒(10-1410-15 s)という非常に速い時間で起こします。この時に、分子が接触する導電体と電気的なつながりが強い場合には、オージェ崩壊にも影響を与えることになります。オージェ崩壊で放出される電子の変化を分光学的に観測することで、内殻正孔寿命(数フェムト秒)を基準にした、速い分子内電荷移動を調べることができます(core-hole clock法)。

新奇金属ナノ粒子・接合体・ワイヤーの合成

  • ・レーザーアブレーション法による新規ナノ粒子の合成
  • ・自己組織化単分子膜(SAMs)を用いたボトムアップナノテクノロジー

ナノメートルスケール(10-710-9 m)の物質であるナノ粒子は触媒活性の発現に代表されるように、通常のサイズの物質とは異なる性質を示します。
私たちは、液中で金属基板にレーザー光を集光することでナノ粒子を合成するレーザーアブレーション法を用いることで、保護膜で覆われていなくても安定に液中分散する裸のままのナノ粒子を合成しています。この金属ナノ粒子に機能性分子を修飾したり、ナノ粒子間を分子で直接接合することで金属ナノ粒子ワイヤーを合成したりしています。また異種金属を混ぜることでナノサイズの合金やバイメタリックなナノ粒子ワイヤーの合成も試みています。
このような粒子を合成することで、導電性や粒子間の相互作用を制御したナノデバイス材料・分析用ナノアッセンブリの開発や、ナノ粒子の機能化による新規物性材料の創出を目指した研究を進めています。

疑似生体膜の作成とタンパクの機能・ダイナミクス解明

  • ・バイオテクノロジープラットフォームの作成
  • ・巨大分子のダイナミクスを正確に捉える

生体組織や細胞を形作っているのは長細い有機分子(脂質)です。このような分子の集合体が、自由度の高さに反して秩序を保つことができるのはなぜでしょう?生体を機能させ情報交換しているのはタンパク質といった分子です。乱雑な細胞の中でどのようにして正確に機能を発現できるのでしょうか?どのようにして情報(エネルギー)を伝えているのでしょうか?
このように、私たちは複雑もしくは乱雑な巨大分子の動きを正確に見たいと考えています。そのための観察場(試料環境)と観測手法(分光計測方法)の構築を進めています。例えば放射光の元素選択性を利用することでリン脂質二重層の秩序構造を調べたり、自己組織化単分子膜(SAMs)上にタンパク質を高密度に配向吸着させる研究を進めています。

有機ナノ結晶相転移ダイナミクス (固相重合反応)

  • ・個々の分子が反応する様子を捉える
  • ・個の変化から集団の変化へ、その瞬間を捉える

分子は規則的に配列して結晶を構成することができ、なかには結晶のままで化学反応を引き起こすものがあります。例えばジアセチレン誘導体は、紫外光を照射することでお互いが化学結合してポリマーであるポリジアセチレンに変化しますが、これは固体結晶内で効率的に反応することができる特異な例です。このような有機ナノ結晶の固相重合反応を詳しく観察することで、個々の分子が変化する様子や、個々の変化から集団の変化へと移る瞬間(相転移)を捉えたいと考えています。
そのために私たちは、チタンサファイアレーザーというフェムト秒(10-13 s)という非常に短い時間だけ輝くレーザーパルスを用いることで、ピコ秒オーダー(10-810-12 s)での電子状態の変化や、ダイマー(二量体)形成からポリマー形成に至るマイクロ~ミリ秒オーダー(10-1 - 10-6 s)までの様々な時間スケールでの反応ダイナミクスの理解を目指しています。このような研究は固相重合プロセスの理解に立脚した新しい物質・材料評価手法の確立にもつながると期待しています。

X線自由電子レーザー(FEL)を用いた先端計測研究

  • ・これまでにない強力なX線と物質との相互作用の解明
  • ・化学結合が変化する様子を実時間で捉える

シンクロトロン放射光とレーザーは1960年を前後するほぼ同じ時期に発明され、それぞれ互いにない特徴を武器にしながら科学研究で広く活用されてきました。それから50年を経て、今度は両者の利点を併せ持った新しい光「X線自由電子レーザー(XFEL)」の黎明期を迎えました。短波長(X線)であり、フェムト秒パルスであり、高輝度であり、高コヒーレントであるこの新しい光源XFELが拓く新しい物質科学が展開できるようになりました。
私たちは国内外の研究者と共同研究体制を作り、このような優れた新しい光と先端計測装置を組み合わせることで、原子や分子、その集合体であるクラスターを研究対象に、新しい光と物質の相互作用の解明や化学結合が変化する様子を実時間で追跡する研究に挑戦しています 。

使用光源

  • 放射光: HiSOR (BL-6 & 13), SPring-8, PF, UVSOR, BESSY II(独), SOLEIL(仏), PETRA III(独)
  • 光学レーザー: Tsunami & Spitfire (Spectra Physics)
  • 自由電子レーザー: SACLA, LCLS(米)

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